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大阪地方裁判所 昭和33年(行)27号 判決

原告 榎村君子 外一名

被告 大阪府知事・国

主文

一、本訴のうち、被告国との間で、別紙目録記載の土地につき、被告大阪府知事が昭和二三年七月二日を買収の時期として自作農創設特別措置法に基づいてなした買収処分の無効であることの確認を求める訴を却下する。

二、原告その余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告両名との間で、被告大阪府知事が別紙目録記載の土地につき、昭和二三年七月二日を買収時期としてなした買収処分は無効であることを確認する。被告国は別紙目録記載の土地につきなした昭和二三年七月二日を買収の時期とする買収処分による所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

「別紙目録記載の土地は、元、原告の先代亡榎村滝三の所有地であつたが、大阪市城東区農地委員会は右土地につき自作農創設特別措置法(以下自創法と略称)第三条に基づき、昭和二三年四月二七日に同年七月二日を買収の時期とする買収計画を樹立し、被告大阪府知事は同年七月二日右土地を買収直後右買収計画により右原告先代に対して買収令書を交付して買収処分をした。

しかしながら、右買収処分は次にのべる理由により無効である。すなわち、同法第三条第一項によれば「農地の所有者がその住所のある市町村の区域内において所有する中央農地委員会が定める面積を超える小作地、ならびにその居住市町村区域内で所有する小作地の面積とその者の所有する自作地の面積の合計が中央農地委員会が都府県別に定める面積を超えるときは、その面積を超える面積の当該区域内の小作地」は買収できるが、その定められた面積、すなわち保有面積は買収できぬこととなつており、大阪府では右小作地の保有面積は六反(右自小作地合計の保有面積は一町九反)と定められている。そして右六反の中には、地主の自作している農地が含まれないのはもちろんであり、又都市計画による区画整理が行なわれた土地で府知事が自創法第五条により買収除外地として指定した土地も含まれないのである。

ところで原告等の先代亡榎村滝三は在村地主であつて、本件買収処分の行なわれた当時に所有していた土地は次のとおりである。

(イ)  非農地かつ自創法第五条四号指定地(地目は田となつているが、既に地上に建物が建築せられている土地)

(1)  天王田町二丁目四三 田 二反一畝九歩

(2)     〃   一五 〃 二、二、〇二

(3)     〃   一六 〃   五、一一

(4)     〃    五 〃 二、六、一八

(5)  白山町五丁目二   〃   八、〇三

計               八、三、一三

(ロ)  買収除外指定地

(1)  鴫野本町六丁目八五 田   七畝一九歩

(2)  天王田町二丁目二五 〃 一反四畝〇七歩

(3)  永田町一丁目 二〇 〃   八、一二

(4)  北中浜町五丁目二〇 〃   四、二七

(5)     〃    二 〃   八、二八

(6)  北中浜町四丁目七五 〃    九、六

(7)  永田町一丁目 一二 〃   八、一二

計               六、四、二二

(ハ)  自作地

前記(ロ)の内の(1)、(2)、(3)、(4)、(5)が原告の自作地である。

(ニ)  前記(イ)、(ロ)、(ハ)以外の農地

(1)  天王田町三丁目 五 田   三畝二六歩

(2)     〃   一五 〃   九、一七(本件土地)

(3)     〃四丁目 七 〃   三、一六

(4)     〃   一一 〃   三、一六

(5)  北中浜町五丁目 七 〃   八、一一

(6)     〃  七の一 〃   八、二五

(7)     〃   一四 〃   二、〇八

計               四、〇、二九

なお、前記(イ)の各土地については原告の自作地であるとの主張はしない。

前記(イ)(ロ)(ハ)の土地は自創法による買収の対象にならない土地であり、右(ニ)の合計は四反二九歩で六反に満たないから、その全部が保有農地として買収することを許さないのにかゝわらず全部買収し、したがつて亡滝三は在村地主としての保有農地は皆無となつた。一筆の保有農地をも認めず、その小作地を買収したかしは重大かつ明白である。よつて被告知事のなした本件土地に対する買収処分は無効であるので、右滝三の死亡(昭和三〇年七月一〇日)によりその権利義務を承継した相続人である原告等は被告両名に対し、前記買収処分の無効であることの確認を求め、被告国に対し、右買収処分による本件土地の所有権取得登記の抹消登記手続を求めるものである。」

証拠として甲第一、二、三号証を提出し証人二ノ湯重五郎の尋問を求めた。

被告両名は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

「別紙目録記載の土地が原告等の先代榎村滝三の所有であつたこと、右滝三は右土地に対する関係で在村地主に該当すること、同人が昭和三〇七月一〇日死亡し、原告等はその相続人であること、右土地について大阪市城東区農地委員会が原告主張の日にその主張のような買収計画を樹立し、原告主張の日に被告府知事において買収処分をしたこと。原告主張(イ)(ロ)の土地が自創法第五条第四号による大阪府知事の指定区域内にあること、(イ)の(1)のうち五畝が本件土地買収当時農地であつたこと、(ロ)の(2)、(4)、(5)が原告の自作地であつたことは認めるが、(イ)の前記以外の土地が非農地であつたとの点、(ロ)の(1)、(3)が原告の自作地であるとの点は否認する。買収できる農地で保有地として残した土地はないけれども前記(イ)、(ロ)の土地を残してあるので原告の保有地を侵害したことにはならない。」

尚被告国は右の外次のとおりのべた。

「原告主張(イ)の(1)、(ロ)の(1)は二ノ湯重五郎の小作地であり、(ロ)の(2)は仮装自作地で右二ノ湯が原告等先代から賃金をえて耕作していたものである。」

証拠として、証人竹田政喜、同西村国吉の尋問を求め、「甲第三号証は成立を認める。」と述べた。

理由

原告の被告国に対する買収処分無効確認を求める訴について。

行政処分の無効確認を求める訴は行政処分に重大明白なかしの存することを攻撃して右処分の効力を争うものであり、その本質においては取消訴訟と同じであるから、訴願前置、出訴期間等に関する点を除いては無効確認の訴にも行政事件訴訟特例法を類推適用すべきものと解すべく、したがつて無効確認の訴の被告は同法第三条の趣旨により、当該行政庁のみが正当な被告であると解する。(昭和三三年四月二一日当裁判所判決、例集九巻四号五六七頁参照)そうすると被告国は本件の買収処分の無効確認の訴について当事者適格を有しないで、原告の被告国に対する無効確認の訴は却下する。

次に被告知事に対する買収無効確認、被告国に対する登記抹消の各請求につき検討する。

原告等の先代亡榎村滝三が別紙目録記載の土地を所有していたこと、右土地に対する関係において右滝三は在村地主であること、右土地につき被告知事は大阪市城東区農地委員会の樹立した昭和二三年七月二日を買収の時期とする買収計画により、その時期の直後亡榎村滝三に対して買収令書を交付して買収処分をしたこと、当時右滝三の所有していた原告主張の土地(イ)、(ロ)はいずれも自創法第五条第四号による大阪府知事の指定区域内の土地であること、本件土地に対する買収の結果、買収できる農地であつて保有地として残された土地は一筆もないことは当事者間に争いないところである。

自創法第三条第一項二号、三号によれば大阪府の場合在村地主の小作地の六反を超える部分、自作地、小作地の合計一町九反を超える場合には超えた部分の小作地は買収されるがそれ以下の小作地はいわゆる保有地として残されることゝなつている。

ところで、右六反なり、一町九反の計算に当り、買収しない農地として同法第五条第四号および第五号に認定する農地(本件の場合は同条第四号該当農地)も含めて計算するかどうかであるが、同法第三条第四項は「第五条第七号及び第八号に規定する農地で命令で定めるものゝ面積は、第一項第二号又は第三号に規定する小作地又は自作地の面積に算入しない」と規定しながら第五条第四号および第五号該当農地についてはかような規定を置いていないことよりみて第五条第四号および第五号の農地も含めて計算するものと解すべきである。これと反対の見解に立つ原告の主張は採用しない。

原告主張(イ)の(1)の土地のうち五畝が昭和二三年当時非農地であつたことは被告等も認めるところである。作成の方式および趣旨より真正な公文書と推定される甲第一号証ならびに証人竹田政喜の証言を総合すれば(イ)の(1)、(2)、(3)の土地は昭和二三年当時全部非農地であつたことが認められる。右甲第一号証には(イ)の(4)、(5)の土地も非農地であることを大阪府城東区農地委員会々長が承認し、大阪府知事が証明する旨の記載があるけれども証人竹田政喜の証言によれば、右(イ)の(4)の土地は本件買収当時三由某が耕作していた田であつて(イ)の(5)の土地のうち六畝二歩位は非農地であつたが約二畝は竹田政喜が原告等の先代榎村滝三から借り受けて耕作していたことが認められる。甲第一号証の記載は右証言と牴触する範囲において信用しない。

原告主張(ロ)の土地のうち(2)、(4)、(5)の土地が原告の自作地であることは被告等も認めるところである。証人竹田政喜の証言によれば(ロ)の(1)の土地のうち北半分は竹田が滝三から借り受けて耕作し、南半分ならびに(ロ)の(3)の土地は三由が耕作していたことが認められる。

右認定の三由の耕作部分((イ)の(4)、(ロ)の(1)の南半分、(ロ)の(3))は証人竹田政喜同西村国吉の証言によれば三由が滝三から借り受けて耕作していたものか、滝三に雇われて耕作していたものかであるが、本件の証拠によつても、そのいずれに属するかは明らかでない。もつとも右(イ)の(4)の土地は原告において非農地と主張し、かつ自作地との主張はしないと釈明しているから、右土地は小作地と認めるのが相当である。

原告は本件買収処分は小作地の保有面積を侵害したものであるから無効であると主張するのである以上、買収から除外された小作地が六反歩に満たないこと、そのかしが明白であることを具体的に主張、立証しなければならないところ、右認定のとおり原告主張(イ)、(ロ)の土地のうちで非農地であること、自作地であることにつき争いのない土地、証拠によつて非農地と認められる土地を除いた次の土地については小作地でないことを認めるに足るべき証拠がない。

(イ)の(4)の土地    二反六畝一八歩

(5)の土地のうち   二、〇〇

(ロ)の(1)の土地      七、一九

(3)の土地      八、一二

(6)の土地      九、〇六

(7)の土地      八、一二

計            六反二畝〇七歩

そうすると本件買収処分は保有地を侵害しているから無効であるという原告の主張は認められないので被告知事に対し、本件買収処分が無効であることの確認を求め、被告国に対し、右買収された土地の取得登記の抹消を求める原告の請求はいずれも理由がない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 平峯隆 中村三郎 上谷清)

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